Aslisa Ellenis

■勇者の系譜 -armila-

「ところでアルミラって学校についてなんだが」

道案内を兼ねて先頭にいたエンフォンスが不意に振り向いた。誰という訳でもないが主にイライジャに、
「……その、なんというか、非常に、派手な学校だから気をつけてな。いや、お前さんなら大体のことは大丈夫そうだが」
非常に派手だから、気をつける……? 訝しげに目を細めたイライジャにエンフォンスは言った。
「まあ、実際にみてみりゃわかるだろ」

それで、アルミラ魔術師学校――まあ一応学校の体裁は取っているので大体の雰囲気はミドルベリーと大差ない、ただ校舎のあちこちがやたらと傷んでいる。見る限りそんなに歴史のある学校には見えない訳だが。

ミドルベリーは曲がりなりにも「魔法」の研究と実践をしている学校である。故に純粋に魔法に習熟している者が大多数なので、時に暴発などで校舎に損傷が生じることはある。 だがアルミラのそれは何というか、どう見ても魔法では無い何かによる荒れ具合に見える。

廊下を往く間、ミドルベリーの5人は幾つかの喧騒や小競り合いを目撃した。そして彼らの武器は「魔法ではなかった」。

「まあアレだ、ここは魔術師学校つっても、ここならではの意味合いなんだ」

ここで言う【魔術師】とは「世界の仕組みを知る者」だ。閉じた【第27区】は、停滞と未確定のもとに在る。そして魔術師が疑問を持った瞬間に後付けで物事が決定付けられる――その性質故に、それを行使するか否かに関わらず、彼らはかつて異端とされた。
彼らを保護する為に預言者として祀り上げたのが諸々の魔術師学校の興りであり、その先駆けがミドルベリーである。しかし彼ら魔術師の中には、到底「“魔術師”と呼ぶに至らない」者も少なくなかった。その為の受け入れ先として作られたのがこのアルミラであり、後に訪れる朱雀ヶ峰魔導気練塾である。


さて、大体定刻通りに打ち合わせの場所であるアルミラの8期ギルド詰め所に来たものの、未だ誰も来ていない。 まあアバウトな校風だからな、と言って遠慮なく椅子に座ったエンフォンスが改めて時計を見たとき、音も無くドアが開き、まずひとりの男子生徒が現れた。

彼はレサトと名乗り、じきにもうひとり来る、とだけ言って面倒そうに隅の椅子に座り背もたれに寄り掛かって脚を組んだ。態度も表情も非常に怠惰な感じだが、身体能力はかなり高そうだ、あとは手先が器用そうなのと、何故かその粗野さに似つかわしくない気品のようなものが垣間見える、というのがイライジャの見立てだった。

程なく腰に剣を携えた女子生徒がひとり、今度は盛大にドアを開け放ち現れた。
「ふっふっふ、我の待ち望んだこの邂逅の日に祝福あれ!」
現れるや否やよくわからないことを言い放った彼女に対してどう反応して良いものやら、判断に苦しんでいるところにさらに、
「我々は運命に選ばれし者、皆でこの世界の! 秘密と救済を……」
「ああ、アレいつもああだからほっといていい」
レサトが顔の前で右手の手首から上をメトロノームのように振った。

彼曰く、この女生徒はスピカ。魔法も剣術もそこそこで成績もまずまずだが言動がああなので講師陣も他の生徒も扱いに難儀しているらしい。

「……それにしても何で俺らなんだろうな」
ぼそっと呟いたレサトの台詞に思わずアイザックとナタリーは目を剥いた――イライジャは「魔術師だからじゃないか」と言い掛けたが、その意味が周囲は兎も角本人に伝わるかどうかが不安だったので敢えて言わなかったが。


空気が微妙になっている中、アルミラの担当講師が現れて仔細の説明を始めたのはそれから15分後のことだった。ミドルベリー以外は万事に適当だというのはその通りだし、イライジャは自身の講師としての所属がミドルベリーになるであろう理由を心底理解しつつあった。

■アルミラ魔術師学校
★【第27区】にある魔術師学校のひとつ。ミドルベリーが正統派なら、アルミラはイレギュラーに類される。元々魔術を専門とする者は(魔術アカデミーの付属である)ミドルベリーに行くので、基本的にはそこに行けなかった者の受け入れ先である。魔法の素質がそれほどでもない場合は勿論、人間性や家庭環境に何らかの問題を抱えている者も多い。

■レサト・ミルス
レサト。アルミラの3年生、銀髪で粗野な感じ★アルミラの3年生。ものぐさでぶっきらぼうだが、時折立ち居振る舞いに育ちの良さが見受けられることがある。

というのも、実はそれなりに地位と立場のある貴族の家の子だったが、先祖帰りである人狼としての能力が目覚めた為に森に捨てられたのを、神父(という名の仕事人)のミルス師に拾われて今に至る。本人は意図して粗野に振舞っているつもりだが、元いた世界では曲がりなりにも貴族の端くれ(=騎士)だったイライジャにはしっかり見抜かれていたようだ。

ミルス師の教育と人狼の血故か、高い身体能力と手先の器用さを持つ。魔力はからっきし。

■スピカ・リントベルク
スピカ。アルミラの1年生、双葉アホ毛の中二病★アルミラの1年生。厨二病。大仰で不可解な言動が多く、思考や素性を掴み辛い。自身と仲間を選ばれし者だと思っており――魔術師である以上強ち間違いでもないのだが――、いずれ世界を救う勇者になる一行と信じて疑っていない。

とはいえ、この奇矯で自信過多な言動はある種の仮面であり、本来の性格は臆病で内気らしい。幼少期にあった出来事について固く記憶を封じているらしいのだが、この時点で本人すらそれについては把握していない。唯一現在アカデミーに通う兄がそのことについて手掛かりを持っている。

それなりに魔法と剣術の素養があり、小器用なポテンシャルと厨二病的な性格故に魔法剣術として昇華している。但しその源がどこにあるのかはやはり本人も気付いていない。