Aslisa Ellenis
【設定語り】削除ツイートのサルベージ(1)
諸事情あってTwitterから削除した一連のツイートです。本来は【第27区】のどこかに置くべきなのでしょうが、まだ整備されてないのでとりあえずここに置きます(後々移動します)。

段落はツイート単位で分けています。

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【おまけ】【第27区】【九賢】「……ドローレスは本当に死んだと思うかね?」イライジャはノエルに問う。彼は日頃からあまりに仏頂面なので表情から真意を伺うのは難しいが、口調にはほんの僅か、怒気と呆れを含んでいるように思われた。

ノエルはドローレスと面識がない。同じタイミングで【九賢】であったことがそもそも無い。ただ先代の【観測者】たるシグムントからその存在を聞いたに過ぎない。繊細で内気で頑なで、そして儚い少女。心を砕いて世界に絶望したと聞く。

しかしそれもシグムントが【観測者】の座をノエルに押し付けて「彼女の後を追って行ってしまった」現状、確かめる術もない。……はて、本当にドローレスとは何者だろうか。……実のところノエルばかりでなくイライジャも彼女とは「面識」が無かった。

直接的な面識は無かったが、但し「認識」――同時期に【九賢】の座に在ったことはある。少なくとも【探索者】イライジャから見て、【贖罪者】ドローレスというのは公の場に全く姿を現さない人物だった。そも贖罪者というのはそういうものだが、

実のところドローレスという名もシグムントがそのように説明しただけで、本名か自称か通称かも解らぬものだった。ともあれ認識としては「直近の【贖罪者】」は度が過ぎる程に存在を隠匿していたように、イライジャは思う。

他の【九賢】に話を聞いてみたいところだが、その大半が行方知れずのままである。唯一【調停者】卯月は全員を把握し熟知しているだろうが、彼女は余程事が大きくならない限りはその影響の強さを恐れあまり関わってこないだろう。

兎に角現状、ドローレスはここには「存在していない」。シグムントがノエルにした説明によれば「死んだ」。とされているが、果たしてそれは事実なのだろうか。……今まで欠片も疑問に思わなかったことだが、それは魚の小骨のように

イライジャの喉に引っ掛かっている。右手の人差し指で机をテンポ良く叩きながら彼は思い起こす。そも【第27区】を擁するこの世界を見て、イライジャはそれを【贖罪者の領域】だと判断した。それは「世界が閉じていた」からだ。

「自然に出来上がったわけではない世界」はそれを構成する創造者の意識と意思とに左右される。少なくともこの世界を構成する要素はイライジャ達が現れるまで著しく杜撰で曖昧だった。本来常識とされる部分すら割愛されていた。

つまるところ「普遍的な構成要素」すら必要としない世界、「閉じたまま完結している世界」。そのようなものを作ろうとするならそれは数多の罪を抱えてただ消え去る【贖罪者】の為す業だろうと、【探索者】は考える。

本来【贖罪者】はこの世界を「罪の箱庭」にして抹消したかったのではないか。ただそれを是としない者がちょっとした悪戯を――そこまで考えてイライジャは引っかかっていた疑念の正体に気付いた。もし誰か別の者の影響で世界が開かれたのであれば

世界は開いたままになる筈ではないのか。しかしこの世界は、彼らイレギュラーの介入と存在は許したが、外に開かれるべき【扉】は依然固く閉ざされている。即ちまだ創造者、おそらく【贖罪者】の影響下にあるのだ。

そこで改めてイライジャはノエルに問うた。「何故この世界は我々が在って尚閉じたままなのか?」少なくとも【九賢】がふたり居ながらそのふたり共【扉】をこじ開けられないのは妙な話だった。そこでノエルも違和感に気付いた。

何故シグムントは資質の欠片も無い自分に【観測者】という立場を押し付けたのだろうか。正直なところ【九賢】は本来絶対的な状況介入能力を必要とするが、勿論ノエルはからっきしだし、イライジャも決してそれが達者ではなかった。

イライジャは述懐する。少なくともシグムントであれば「ドローレスの頬を引っ叩いて世界を修正する」ことぐらいは容易かった筈であると。他の【九賢】が姿を見せないことも含めて、どうやらこの「閉じた世界」は何者かが「介入を前提」として――

即ち【九賢】の中でも能力的に下位であるイライジャとノエルしかいないところを狙っていたかのような。……いや、でも待て、未だこの世界が【贖罪者】の影響下にあるなら、そもそも【九賢】を含むイレギュラーの介入を許すだろうか?

そこでひとつ仮設が過る。即ちこの世界の創造者が「ひとりではないとしたら」どうだろう。閉ざそうとする者と、開こうとする者。とはいえひとつの世界の創造に複数の【賢者】が関わることは有り得ない。つまり――

【贖罪者】が、ふたりいる?」ノエルは顎に指を添えたままイライジャに一瞥を向ける。ゆっくりと深い頷きが見えた。即ち何らかの事情と方法でドローレスに【贖罪者】を降りて貰ったのではないか。しかし世界自体はまだ彼女の影響下にある。

それで冒頭の問いになる。「ドローレスは本当に死んだのか?」と。少なくとも継続的に世界を縛る程度の力が残っている。もし本当に「死んだ」のなら、【もうひとりの贖罪者】の力の方が勝つのではないか?

或いは【現贖罪者】がそれも出来ぬ程に能力不足なのかも知れぬが、それをイライジャが指摘するのは笑い話になってしまう……まあその辺りはさておき、この【第27区を擁する世界】は【ふたりの贖罪者】の支配下領域だと仮定した。

せめてもうひとり【九賢】がいればな」立場上飛び回るのが常の【探索者】と代替わりしたばかりの【観測者】では情報が圧倒的に足りない。「それで、僕は何をすればいいんだ」今度はノエルがイライジャに訊く。「何も」

訝るノエルにイライジャはゆっくりと語る。「君はただ、【ここ】にいるだけでいい。君はこの世界における最初の【イレギュラー】だ。命を受け正式に継承した【九賢】が存在していることそのものに、重要な意味がある」