Aslisa Ellenis

■叢雲家の家庭の事情

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とても小さい頃は、両親と妹といっしょに暮らしていた。


私は、叢雲潤。
叢雲というのは父の姓で、この父は軍人だ。軍のラボで【デバイス】という特殊な道具を作っていた人だが、もう死んだ。
私には双子の妹がいて、名前が九重結。九重というのは母の姓だ。


まだ私が5歳ぐらいの頃、ふとパソコンの中には何が入っているんだろうと思ったことがある。

私が生まれた頃にはパソコンのない家はなかったし、どこの家でも手足のように使っているものだ。だから、モニターではなく電源やディスクの付いた部分が本体だっていうのは、幼い私でも知っていた。
そのパソコン本体の方をじっと見ていたら、中に入っているであろう情報がするすると頭の中に入ってきてびっくりしたことがある。
驚いて一瞬パソコンから意識をそらしてしまったけど、好奇心の強い私は、今度は自分の側からパソコンに情報を送ったり出来ないだろうかと思い、実際にやってみた。

勝手に動作するパソコンと、目の前にちょこんと座る私を、母が見つけた。

これこそが私の生まれ持った能力で、ソーサラー能力のひとつであり――母はそれを忌み嫌った。

母は自分がソーサラーではないと信じていて、反ソーサラー組織に籍を置いていた。だから、娘である私にその手の能力が備わっていることを大層気味悪がった。そして、すぐに父から受け継いだものだと認識した。
父は自分がソーサラーであることを隠して母と結婚した人だった。けれども娘の私にその能力が発露してしまったから、私もろとも母に拒絶されることとなった。間もなく両親は離婚し、私は父に、まだソーサラー能力が発露してなかった妹の結ちゃんは母に引き取られた。


それから8年程経ったあるとき、母が所属していた組織が、軍のラボラトリを標的にテロ行動を起こした。
殆ど間を置かずに行われた2回の爆破テロのうち、最初の1回は主に【人為SS】(という、遺伝子をちょっと弄って人為的にソーサラー能力をくっつけた人)の研究をしているラボを中心に行われたから、父や私がいたところは無事だった。でも、直後のテロは無差別に行われ、そのとき私は父を失った。
厳しく、そして優しい、私にとっては誇りだった父を。

その後、私はお世話になっている敦賀少将(忍先輩の父上だ)の勧めで帝都大高校に入った。
入学式で、久しぶりに結ちゃんに出会った。最初は偶然同じ高校に入ったことに喜んだが、話しているうちに、考え方の相違に少し悲しくなった。結ちゃんは母に育てられたから、軍とかソーサラーとかというものが基本的に嫌いなのだ。結ちゃんのそういう反応に、私自身を否定されたような気がしたのだ。

けれども、結ちゃんはいつか解ってくれる気がする。
最初のテロの際にターゲットを定めたのは当時幹部だった母で、意図的に父や私がいるラボを避けていたことを、私は知っている。
だから。