■ランサーズの日常:帝大軍事部2期C班編その1
***ブルージャケット(連合宇宙軍極東連隊ランサーズ)は主に小隊単位で運用されるが、ときに複数部隊で、或いは部隊の垣根を越えて活動することもある。
第1・第3・第9部隊は隊長同士が同期であることもあり、比較的一緒にいることが多い――主に隊長が。
「……はあ」
珍しく三里塚恵がぼやきながらランサーズ詰め所に現れたのは小規模共同作戦のあと、末永耕と生駒清流が詰め所で駄弁っていたところにだった。この3人は大学時代の同期であり、共に卒業研究(という名の初陣任務)を仕上げた間柄で、それぞれがランサーズの部隊長として活躍する現在でも仲が良い。
「恵がぼやいてるなんて珍しい。何かやらかしたか?」
第1部隊長でありランサーズ統括の末永は当時から纏め役だったが、現在も個性的で血気盛んなランサーズの面々を良く纏めており周囲からの信頼は篤い。
「いえ、ね……僕じゃないんですけども」
日頃あまり開かれない三里塚の目が更にぎゅっと閉じ、眉間に皺が寄った。
「藤原くんがね、どうもすぐ無茶するっていうか、突っ走るっていうか……」
藤原瞭人。現在帝都大学軍事部在学中である。軍事部の人数が激減した為に三里塚たちの世代とは卒研の仕組みが変わり、ランサーズの部隊に仮所属をして実践を詰む形になったのを受け、瞭人も三里塚率いる第3部隊の所属としてランサーズの仕事をしている訳だが。
三里塚曰く、その藤原瞭人が何かを焦っているかのように先陣切って飛び出して行ってしまうらしい。瞭人自身は優秀だし、実際それが原因で任務が失敗になったことはないので、事態としては然程深刻でもないのだが、一応隊長としてはそこはちゃんと指示を聞いて欲しいと思う訳である……
……という話を聞いた末永と生駒が、一拍空けて顔を見合わせた後、噴き出して笑いだしたものだから、三里塚は真顔になった。
「え……僕何か今変なこと言いました?」
「いやだってさ、昔の恵ってそんな感じだったじゃん」
生駒が三里塚を指した。
「……そうでしたっけ?」
「そうそう。お前すぐ先に突っ走って行っちゃうから」
小首を傾げる三里塚。今もどちらかといえば怖いもの知らずの豪胆で前線に出たがる傾向が強いが、昔は輪を掛けて酷かった、と末永と生駒は口を揃えて言う。
「卒研の時もアレだろ、結果オーライだから良かったけど」
「俺が追い付くまで待っててって言ったのに先突っ込んじゃって」
「それで戦線が前に出過ぎて……」
「その分逃がし難くはなったんだけどね」
「で、足場無くなって匡喬が自力で空中から撃たなきゃいけなくなったときに戻るのが間に合わなくて俺が」
「ああもう、はい、わかりましたから……!」
さすがに何年も前の武勇伝を延々語られるのがしんどかったのか、三里塚はふたりを遮った。
「まあ、あの頃よりは慎重になったよな」
「そうだな、部下の心配を真面目にするぐらいになった訳だし」
そう言って笑う末永と生駒に何も言い返せない三里塚であった。
もっともこれは彼らが互いをよく知りよく信頼している証左でもある。そのことをわかっているから、彼らは共に笑い、共に戦う。