Aslisa Ellenis

■第三次魔障鎮圧作戦(1)

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帝都大学付属高等学校。連合宇宙軍が士官候補生を養成する目的で提携している七領市内の学校である。
かつてこの帝都大高で、あるひとつの惨事があった。

【魔障】という現象がある。
何らかの形で漂っている魔導力が寄り集まり、渦のように固まる。大抵の場合はそのまま再び霧散し、或いはソーサラーが己が力の糧にする。即ち基本的には生まれては消えるを繰り返すものである。しかし稀に、魔導力の渦がそのまま育ち、手に負えない程のエネルギーを蓄えることがある。これを【魔障】と呼ぶ。
この状態になると、付近のソーサラーの“負の思念”を自然と引き寄せて取り込む為、認識可能なレベルまで育ってしまった【魔障】は暴走の可能性を孕んだ危険なものである(つまり基本的に個人で抹消し得るような小規模または良性のものは魔障とは呼ばない)。

【魔障】はソーサラーの負の思念を引き寄せると共に、ソーサラーの負の思念に引き寄せられるものである。とりわけ、潜在能力が高く制御能力の低い性質の悪いソーサラーには。


その昔、帝都大高には生徒会組織が4つ存在した。
現存する【星光生徒会】と【月影生徒会】。
そして壊滅した【紅蓮生徒会】と【蒼穹生徒会】である。
互いに切磋琢磨することによって高い実行力を得た4つの生徒会は、それぞれが独立して、ときに協力して校内の平定を担っていた筈だった。

均衡を破ったのは【紅蓮生徒会】だった。ときの会長が【魔障】に触れ、内なる野心を滑らせた。
果たして、【魔障】は暴走し、そしてその発端となった本人にそれを御する能力は無かった――あったならはじめから暴走などしなかっただろう。

とはいえこのときはまだ、個人に御しえなくても生徒が一丸となれば抑えられる【魔障】だった。4つの生徒会が協力して制圧に当たり、取り急ぎ老朽化の進んでいた校舎の一角に閉じ込めることに成功した。そのまま厳重に封印を施し、廃校舎としてそのまま触れざるものとなる筈だった。

――筈だった。

しかし物事というのは繰り返されるのが常というものか、この封印までして閉じ込めたものを、興味本位で再び筐を開けた者がいた。
……後の【紅蓮生徒会】の会長である。

こうなると生半可な押さえ方ではどうにもならない。まさしく死力を尽くした戦いを、彼らは強いられた。

そうして行われ、多くの犠牲を生んだ作戦が【第二次魔障鎮圧作戦】である。

この後、多くの問題の発端となった【紅蓮生徒会】と機能を維持するだけの余力を既に持っていなかった【蒼穹生徒会】は廃止され、後の【星光】【月影】両生徒会のみが残った。


当時連合宇宙軍極東連隊は、この一連の事象についての管理問題を追求されたが、全面的に黙殺の上、事実を隠蔽した。しかし泰明率いる2041年組編の上層部はそれを是としなかった。

かくして過去の惨事は暴かれ、七領市内に激震が走る。だがそれだけではなかった。連合宇宙軍はこれらの件について全責任を負うと共に、根本的な問題の解決を試みると表明したのである。

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[2041.7.13]

新入生もそれとなく馴染んできた夏の頃。
この日突然現れた嵐は、関わる者を否応無く巻き込んで行った。


エアコン完備で快適な新校舎。軍事部には各学年の生徒。

帝都大高には一応学年の概念はあるが、合計3年間(例外アリ)学ぶというだけで、通常の高等学校の学年とは扱いが異なる。授業もひとところに集めはするが、基礎部分以外は個々で学び教わるものなので、学年ごとに教室を分ける習慣がなく、また学級の概念もないので、何年何組、という教室の分け方はされていない。軍事部なら軍事部の教室に、基本的にはいる。もっとも授業内容と生徒の数によっては複数の教室を使うこともある。

そんな訳で、このときは通算3回目の3年生をやっている元・紅蓮生徒会の伊達浩輝と、2年生の敦賀忍扇矢和宣は同じ教室にいた。


この日のこの時間は主担任である堀田勲による「魔導力によるネットワークを用いた指揮系統とその実践」の授業だったか――伊達にとっては既に2年分履修している内容で、敦賀と扇矢は先日模擬テストであっさりパスしているので、この3人はこれ以上教わることはあまりなく、割と暇を持て余し気味である。

それ故に談笑したり落書きしたり、傍目には完全に授業放棄している状態だった訳だが、そんな彼らの意識を、割と乱暴に教室の扉の開く音がすっと持って行った。

「敦賀。敦賀忍はいるか?」

呼ばれたと思って振り返り扉の方を見た敦賀は、そこに想定外の人物の姿を見た。