■メルメルの旅のはじまり
***第12幻界、というところがある。
文化面では我々が住む第1幻界と然程差は無いところだが、ここを治めている王族は【クラウンルピス】という人工種である。クラウンルピスはアンヘルのような外観と高い魔導力を持つが短命である。能力面は兎も角、作られし種族であること、世代交代が頻繁であることをよく思わぬ者も少なからず、昨今はクラウンルピスの一族が国の頂点に立つことに疑問を持ち、排除に向けて動こうとしている連中が現れつつあった。
さて。
ここに王族直系ではないがゆかりのあるクラウンルピスの少女――名をメルメル(感謝)という――がいる。
彼女は王族排除派の目を逃れるように市井の民の家で育つ。もっとも、クラウンルピスは外見に一目でそれとわかる特徴があり、彼女はそれを執拗に隠すように育てられた。それに伴い、あまり他者と関わりを持たない生き方を余儀なくされたところがあり、しばしばそれについてむくれている。
メルメルが15歳になった辺りの頃、彼女の育ての親は彼女にこのように告げた。
「来る王政転覆の日に備え、ルピスという存在を絶やさぬよう、他の幻界に同胞を送りそちらで育てさせた。お前はそれを探しなさい」
そしてやがて来る【世界を飲み込む災厄】に抗う為に一丸となって事に当たれと、メルメルは頼まれたのである。クラウンルピスの、ひいては世界の行方を左右する問題に、それまで何も知らされてなかったメルメルは頭を抱えた。
彼女は同胞の名を伝えられた。サギリ(憧憬)、カミツァ(勝利)、アミス(時代)、アスリス(星)、レム(世界)。
「そしてふたりの王子、カリス(敬意)とエレニス(希望)。さらにお前自身(メルメル=感謝)」
それらは旧い伝承に未来を託して準備されてきたことであった。彼らが一種族として存続できるか否か、加えて世界全体を守れるか否かが掛かっているというが、歳若く万事適当なメルメルにはかなり他人事だった。しかしながら、何かにつけてあらゆる矛先が直ぐ王族を初めとするクラウンルピスに向く昨今の動向を目の当たりにしては、彼女に拒否権はないも同然だった。